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、お邪魔しても構いませんか。」

「八戒さん・・・」

パッと顔をあげたの顔は僅かに曇っていて、ルビーのような輝きを見せる瞳が今日はやけに揺れている。

「・・・どうしました?」

「え?」

「目が、ウサギさんみたいですよ。」

にっこり微笑んでそっと指で目元を拭えば、微かな水滴が僕の手を湿らせた。



後悔して泣いてしまうほど貴女が悔やむ事はないんですよ。



そう言ってあげれば彼女は笑ってくれるかもしれない。
けれど、今回の事は僕も気になっていた事ですから・・・。

、どうして悟浄と口論になったんですか?」

「・・・」

「話しにくいなら無理に言わなくてもいいですよ。ただ、がそんな悲しそうな顔をしている原因を知りたいなって思ったんです。」

「・・・八戒、さん。」

「僕に話してくれませんか?」

暫くを見つめ、彼女の口が開くのを待つ。
やがて何度か躊躇いがちに視線を動かしていた彼女が、僕の目を見つめ語り始めた。

「・・・兄さんが、子ども扱いしたから・・・」

「子供扱い?」

「・・・一人で何処にも行くな。何処か行くならちゃんと何処に行くか言っていけ。勝手に動くなって。」



・・・悟浄、物には言いようってものがあるでしょう。
いくらが心配だからって、そんな風に言ったらが子供扱いされたって思っても仕方ありませんよ。
思わずため息をつきそうになって、慌ててそれを飲み込む。

「兄さんの中では小さな頃の私のままで、何時までも手を引いて行かなきゃいけないって思われてるみたいなんです。でも私はちゃんと大人だし、自分の事は自分で出来るんです。」

「・・・そうですね。」

「それなのに兄さんはいつでも私の側にいて・・・そのくせ自分は何も言わずに何処かへ行っちゃう!!」

ぎゅっと拳を握りしめて草を掴んでいる彼女の手が微かに震えている。

「私、やっぱり足手まといなんでしょうか。」

「そんな事ありませんよ。」

唐突に出た彼女の言葉に思わず反論する。

「どうしてそんな事を?」

「だって、兄さんが私を子供扱いしているって事は、一人にしておけないって事で・・・」

「だから足手まといだ、と?」

コクリと頷いた彼女の頭にそっと手を置いて優しく撫でる。

「全く・・・女性の扱いに慣れている悟浄でも、肉親に対しては上手く言葉にする事が出来ないんですね。」

「え?」

「悟浄の弁護をする訳じゃありませんけど、悟浄は誰よりも・・・貴女を大切に思っていますよ。」

「・・・」

「貴女を一人にしたくないのは・・・もう二度と、離れたくないからです。」



大切な人は、二度とこの手から離さない。



「何処へ行くのか教えて貰いたいのは、貴女がいつも何処にいるのかキチンと知っておきたいから。何かあればすぐにかけつけられる場所に、いたいから。」



異変を感じたら、全てを捨ててでも側に・・・



「勝手に動くな。なんて大層な事を言っていますけど、結局は・・・、貴女に側にいて貰いたいって事なんですよ。」

「・・・」

「頭に血が上っていたから言葉悪く聞こえたかもしれませんが、落ち着いた今なら悟浄の本当の気持ち・・・分かるんじゃありませんか?」

「・・・」

俯いて何かを考えるような彼女の横顔が、不意に記憶の中のあの人に重なった。





――― ・・・悟能



瞳をゆっくり閉じて小さく深呼吸をして気持ちを切り替えると、触れていたの手に先程悟空に分けてもらったチョコレートを乗せた。

「糖分が足りないと人は怒りっぽくなる、と言いますから。」

「八戒さん・・・」

「僕はこれで失礼します。大丈夫ですよ、あの人も今頃肩を落として後悔いている筈ですから。」

「・・・」

「まだ不安ならおまじないをしてあげますよ。」

「おまじない?」

「えぇ。」

にっこり微笑んだままの前髪を軽く手ではらい、そこへそっと唇を押し当てた。

「・・・勇気が出るおまじないです。」

「!!」

一気に顔を真っ赤に染めたが両手を額に回した所為で、手に持っていたチョコレートが地面に落ちた。
それを拾い上げて彼女のスカートの上に置く。

「結構このおまじない、効くと思いますよ。」

「あ・・・あの・・・」

「もし、それでもダメなら僕が悟浄にキチンと話を通してあげますから言って下さい。」

それだけ言うと彼女に背を向け、三蔵達のいるジープに戻った。





他意がない、と言うわけではなかった。
けれど不安そうな顔は彼女には似合わない。



振り向いた視界に移ったのは、悟浄の元へゆっくり近づいていくの姿。
やがて声をかけ、二人同時に頭を下げて・・・やはり同時に笑い始めた。

「兄妹、ですねぇ・・・」

苦笑しながらそのまま並んでチョコレートを食べ始めた沙兄妹を、ただ何も言わず暫く見つめていた。










それから数分後、ジープの中にはいつもの喧騒が戻ってきた。
後部座席ではいつものように三人がカードと始めている。
そしてお決まりのように悟浄と悟空が言い争いをはじめ、そこにの笑い声が混じり始めた。

「悟浄!カード配り悪すぎ!」

「知るか!」

「あ、私フォーカード!」

「さっすが!強いよな〜♪」

ルームミラー越しに後ろを見れば、の頭を撫でながら鼻の下を伸ばしまくっている悟浄の姿が見えた。
その隣には嬉しそうに笑っている・・・の姿。

「ま、サルが負けるのは当然だよな♪」

「サルって言うな!」

「てめぇらいい加減にしろっ!!」

そしていつものように喧騒に耐えられなくなった三蔵が、後部座席に向かって銃を突きつける。
やれやれ、保父さんに休まる時はありませんね。

「ほらほら、三蔵。もいるんですから、銃は使用しないで下さいね。」

「銃弾は馬鹿にしか当たらん。」

キッパリ言い切った三蔵が銃の安全装置を外す。

「なら安心ですね。、そのまま動いちゃダメですよ?」

「使用許可だすンかい!」

「ちょっ三蔵マジ!?」

「きゃーっ!!」



やっぱり兄妹は仲がいいのが一番ですね。





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『桃源郷設定で悟浄と喧嘩したヒロインを慰める八戒』って、物凄くリクエスト内容を省略した書き方ですね(苦笑)
え〜っと久し振りのお兄ちゃん悟浄が書けて満足ですw妹馬鹿悟浄バンザイw
無駄に長いのは何度も何度も書き直して、継ぎ足し続けたからです(苦笑)
仲直りした沙兄妹は今まで以上に仲良しさんになるでしょう。
やまとさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv